怒りのコントロール③

怒りは損なのか得なのか

 

先月(2014年10月)、ノーベル物理学賞に、日本人3人が同時に選ばれるという日本にとってビッグなニュースが飛び込んできました。青色LEDの発明・普及に貢献された3人ですが、その中の中村修二教授は、「原動力は怒り」とお話しされていました。

 

先生は研究環境の不満を、研究へのエネルギーに変えて、素晴らしい成果を出してこられました。中村教授のように、怒りを原動力として、大きな成果を上げている人はたくさんいます。また大抵の革命は、多くの人の怒りが集合体となり、現状を打破したものです。このように怒りは、現状では不可能と思われていることを可能にする大きなエネルギーを持っています。

 

その一方でエネルギーがとても大きいので、制御するのはとても難しいという一面もあります。その証拠を示すように、怒りを制御できず、「カッとなってやった」犯罪が起こっています。今まで頑張って築き上げた立場や名誉・家族・財産などを、一瞬の怒りでなくすケースが後を絶ちません。冷静に考えることができれば、こんなバカなことしないはずだと、第三者は思うでしょう。しかし、怒りのコントロールをできなくなった当事者は、そのあとのことも計算できず、止めることができなくなっています。

 

話は変わりますが、馬は普段非常に頭のいい動物で、騎手の命令に従います。しかし非常に敏感な動物でもあり、驚かされたりしてパニックになると、騎手の命令が届かなくなります。騎手が力ずくで止めようとしても、所詮馬の力にはかないません。実は人間の頭も同様なのです。感情を司る部分は、原始的な古い脳ですが、とても大きな力を持っています。そして大脳皮質という人間らしい高等な部分の脳が、いろんな思考を作り出し、どうやって生きていくかをコントロールしています。

 

怒りというのは、どこから発生しているのかというと、おそらく大脳皮質からだと思います。たとえば、友人に裏切られたとします。するとまず自分が感じるのは、「ショック」「残念」「悲しい」という感情だと思います。実はこのまま、悲しいだけで終わってしまう人もいるのです。しかしこの後、「自分は友人に精一杯してあげたのに」「私を裏切るとは、私を大事に思っていないのか」「このままで済ませていいのか」等という思考が、感情に詰め寄っていきます。その時に怒りは、二次的に発生するのです。

 

ただここからは、思考という騎手がうまく操ることができる場合と、制御不能に怒りが大きくなっていくかで結果は変わります。そもそも思考は、自分を大事にしたいのですから、社会生活のルールの中で相手を見返すことを考えます。短期的には、暴力を伴わない自己主張という方法があるでしょうし、長期的には自分を磨いて、相手より上の立場になることでしょう。この範囲なら、怒りはプラスになることがあります。

 

ただし、怒り自体は興奮状態ですから、体への影響や表情などにはマイナスの影響を与えるかもしれません。一方コントロールを失うと、社会生活のルールを逸脱して、暴力や問題行動となるでしょう。そうなると、損をするのは自分です。おそらく怒りのエネルギーが静まった後で、後悔することになります。

 

まとめると、怒りは両刃の剣です。普段から怒りをコントロールする練習をしておけば、困った現状を打破するエネルギーになるでしょう。しかしコントロールを失うと、間違いなく損をするでしょう。怒るときは、計算された怒りである必要があるのです。