「かんたん!職場で役立つ健康の話」

大坂なおみ選手のメンタル

1月26日に全豪オープンの女子決勝が行われ、大坂なおみ選手がペトラ・クビトバ選手(チェコ)を7-6、5-7、6-4のフルセットで下し優勝しました。この試合で注目されたのが、大坂選手のメンタルの強さです。第2セット第9ゲームで40-0とし、あと1ポイントでチャンピオンという場面から、このセットを落とし、涙まで見せ、通常ならこのままずるずる負けそうな状況でした(この時勝利が目の前にちらついていたようです。ここは今後の課題のようです。)。

 

しかしその後第3セットでは、いやな雰囲気に負けず、冷静さを取り戻していました。この間トイレ休憩をとっていたのですが、その時に「私は世界で1番強い人と戦っていると考えました」「2セット目は失敗してしまったという思いがあった。とにかく自分の感情を抑えて同じ間違いをしてはならないと思った」と話されています。この場面、「自分は相手よりも上だ!」と鼓舞する人の方が多いように思います。大坂選手はある意味真逆のメンタルコントロールをされたのですが、この話から、ある本を思い出しましたので紹介しようと思います。

 

それは、「怒らない、落ち込まない、迷わない」(アルボムッレ・スマナサーラ:幻冬舎)という本です。その一節には「自分がちっぽけな存在だという事実を受け入れて、楽しみましょう」とあります。

 

自信を無くしてマイナス思考になる人は、「自分は大した人間だ」と思っているから落ち込み、一方過剰な自信家は、「雑用など自分のすべきことでない」と傲慢になるそうです。正しい在り方は、自分はちっぽけな存在で不完全だと受け入れて、それを楽しむことだと、本には書かれていました。

 

そして大坂選手は、まさにそれを体現されていました。勝利を焦るという失敗を受け入れ、またそのミスを見逃さない相手を尊敬し、謙虚な自分に戻り、その上でこの大事な場面を楽しみ、今目の前の時間に集中していったのです。このようなことは、その時急に思いついて行ったのではなく、日頃から意識して生活されているのだと思います。

 

大坂選手が愛される理由は、こんなところにもあるのでしょう。そしてこの姿勢は、まさしく「横綱」の資質・品位なのだと感じるのです。

 

 

 

傾聴について①

今まで予防やパワーハラスメントについて説明してきました。その基本にあるのは、人間関係です。そして良好な人間関係を築くには、コミュニケーションが大切です。今回から「傾聴」について、説明します。  

 

では次のような場面を想像してください。仕事で疲れた夫が帰宅しました。そしてバラエティ番組を見ながら、遅めの夕食をとっています。そこに子育てで悩んでいる妻が、次のように話しかけます。

 

妻「今日○○男が学校に行かなかったのよ」
夫「そうか」
妻「学校から電話がかかってきて、なぜ休んでいるのかって」
夫「へぇ」
妻「そういえば、最近友達とうまくいってないみたいだし・・クラブにも力が入っていなかったし・・」
夫「そうか(と言いながら、テレビを見て笑う)」
妻「ねぇ、あなた聞いているの!」
夫「聞いてるよ!○○男が休んだんだろ」  

 

さて、夫は聞いているでしょうか?確かに話は聞いているようです。でも決して「傾聴」という聞き方ではないようです。妻は困り果てて相談しているのに、全く真剣には向き合っていません。このような態度で聞かれると、相談している側は、腹が立ってしまうでしょう。

 

夫は話を聞いているだけで、相手と向き合うこともできていませんし、相手に「私は一生懸命聞いていますよ」というメッセージを送ることができていません。コミュニケーションというのは、単に言葉という情報をやり取りするのではありません。むしろその時の感情のやり取りや、繋がりの確認の方が大切なのです。それができてこその「傾聴」です。

 

では、次回から「傾聴」のために必要なことをお話ししていきます。

 

 

 

パワーハラスメント③

パワーハラスメントはよくありません。しかし、パワーハラスメントを恐れて、部下を指導できないというのも問題です。最近は叱れない上司が多くなっているともいわれます。大切なのは、指導することとパワーハラスメントは別物ということです。ただ間違った指導方法は、パワーハラスメントにつながります。

 

熱心に指導したにもかかわらず、部下がその期待を裏切ったときなど、「怒り」が出現します。この「怒り」という感情は非常にエネルギーが高く、冷静な思考をのっとり、自分自身を見失ってしまいます。そうならないように、「怒りのコントロール」が大切になります。怒りをコントロールするために、次のようなことに気を付けてみましょう。

 

① 叱る前に一呼吸おく
呼吸を整えると、感情は落ち着きやすくなります。一方、怒りを爆発させるときは、一瞬息を止めているはずです。怒りのエネルギーを逃がすように、息をゆっくり吐いてみましょう。

 

② 指導が必要な具体的な行動に焦点をあて、性格の非難や人格の否定をしない
怒りに支配されると、相手にダメージを与えることが目的となります。その際は、相手の性格・人格を否定してしまいます。そうすると、相手は落ち込みやすくなるからです。もし大切な約束を忘れたのなら、忘れたことでどれだけの悪影響があるのか、どうすれば忘れないようになるのかという行動面へのアプローチをすべきです。怒りに支配されると、「うっかりもの」「だらしない」「ばか」「いい加減な人間」というような言葉になりがちです。

 

③ 指導が部下にどう伝わったか確認する(叱りっぱなしにしない)
叱りっぱなしにしないで、その後のフォローも大切です。そうすることで、叱った意味が伝わります。成長を促すために叱っているのですから、成長を確認する作業が必要だと思ってください。

 

 

 

パワーハラスメント②

パワーハラスメントには、どのような行為があるのでしょうか。まずは、具体例を挙げながら、みてみましょう(厚労省 職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ報告を参照)。

 

1、 身体的攻撃
殴る・蹴るというような暴行から、ポスターを丸めて頭をたたくといった行動などを言います。長時間の正座などもそうでしょう。パワーハラスメントというようなレベルではなく、刑事的な事件といっていいものもあります。昔の学校の先生の中には、しごきや体罰として、このような行為をすることがありました。身体的攻撃をするのは、学校教育の影響もあるのかもしれません。

 

2、 精神的な攻撃
脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言などで、傷つける行為をさします。「バカ」「アホ」というような単純な言葉から、身体的な特徴をからかう言葉、「やめてしまえ」「一緒に働きたくない」といった発言があります。発言内容は、こどものいじめとほとんど同じです。

 

3、 人間関係からの切り離し
隔離・仲間外し・無視といったものです。別の部屋で作業をさせられたり、回覧を回してもらえないといったもの、忘年会や懇親会に誘ってもらえないといったものもあります。人間は社会からの孤立に弱く、このような切り離しは、かなりストレスを与えています。

 

4、 過大な要求
業務上明らかに不要なことや、能力的に明らかに困難なことを要求することです。よくドラマでも見るパターンですが、上司や先輩が、新人(ドラマの主人公)に無理難題を吹っ掛けることです。ドラマでは救世主が現れますが、パワハラが行われるような状況では、誰も助けてはくれず、追い詰められてしまいます。

 

5、 過小な要求
仕事を与えないことなどです。仕事がないのは楽ではありません。何もすることがないのは、ストレスがかかります。特に周囲が忙しいと、自分は何も役に立たないと感じてしまうので、とてもつらい時間となります。

 

6、 個の侵害
その人のプライバシーについて、執拗に尋ねたり、また知りえた秘密を軽々しく話したりすることです。結婚や交際相手のことなど、軽い冗談やコミュニケーションのつもりで尋ねる人もいるようです。特に男性上司の方は、女子社員に対しての発言は注意してください。

 

以上のようなことは、何気なく行っている場合もあります。一度振り返ってみてください。

 

 

 

パワーハラスメント①

労働者の60.9 %は、仕事でストレスを感じています(平成24 年労働者健康状況調査より)。そして41.3 %の労働者が、職場の人間関係にストレスを感じており、これが一番のストレス要因となっています。もちろん過重労働など、仕事の量や質で苦しんでいる人がいます。

 

しかしそのストレスも、普段の人間関係がいい中では、「上司や仲間のために頑張ろう」という気持ちになります。また周囲とのコミュニケーションが取れているので、あまりに大変な時は支えてもらったりすることができています。また心配して休みを取るように、進言してもらえることもあると思われます。

 

いい人間関係は、仕事の大変さを包み込んでくれるクッションであり、また乗り越えようとする原動力にもなります。 一方人間関係が悪い中では、自分一人が頑張っているような感覚、この大変さをわかってもらえないという感覚、場合によっては自分を陥れようとしているのではないかというような被害者意識が芽生えます。このような気持ちで、ずっと頑張ることはできません。

 

このように職場の人間関係は、とても大事なものです。その人間関係をこわす一番の要素は、上司からのパワーハラスメントです。ただこのパワハラは、非常に複雑で、いろんなものが入り混じっています。上司が特権階級の力をふりかざしているものもあれば、熱心な指導が行き過ぎてしまったものもあります。また部下の理不尽な要求で、パワハラだと騒がれている場合もあるでしょう。上司と部下のどちらにも非があるようなことも起こりえます。

 

そのためまずは状況把握が必要で、当事者と周囲から十分なヒアリングをすることが求められます。どちらにも言い分はあると思いますが、中立的な立場でヒアリングを行い、問題解決をしていかなくてはなりません。パワハラという訴えがある時点で、人間関係がうまくいっていないのは確実です。早急に対処が必要な状態であり、うやむやにしないことです。次回からは、パワハラについてお話しいていきます。

 

 

 

復職に際しての上司が注意すべきこと

今回は、復職に際して上司が注意しておきたい点を説明します。

 

1、「完璧な状態で復職する」ということは、ありえない
復職に際して、「完璧な状態」を求める上司がいます。休職期間中は、実際の業務から離れているのですから、仕事を思い出すには時間がかかります。また仕事というストレスに耐える状態を作るには、現場復帰後3-6か月くらいは必要です。完璧な状態を復職早期に求められると、復職対象者は焦りが強くなります。その結果、かえって再発を引き起こすことになります。そもそも完璧な状態で仕事をしている人が、どれくらいいるでしょうか?

 

2、仕事がないのは、楽ではない
復職 当初から仕事が多すぎるのは、よくありません。しかし、仕事がないのはもっとつらい状態です。たいていの復職対象者は、復職当初の勤務軽減を申し訳ないと感じています。仕事をしているときは、まだ作業に気持ちがいくのでいいのですが、暇な時間があると、つい忙しそうにしている周囲が目に入ります。「自分のせいで忙しいのではないか」などと自分を責める人もいます。非常に難しい調整ではありますが、本人の体調に合わせた仕事量を与えることが必要で、こまめにコミュニケーションをとる必要があります。

 

3、その他の職員への説明
よく質問されることとして、病名を説明すべきかどうかという問題があります。結論を言うと、病名を説明する必要はないと思われます。病名の説明はプライバシーにかかわる問題であること、そしてその病名をどれだけの人が正しく理解しているかが不透明であることが理由です。説明すべきは、病気からの回復途中であり、約3か月は勤務軽減が必要であることや、復職当初は疲れやすく、仕事が終わった後の飲食への誘いは控えたほうがいいことなどです。病名を説明するのではなく、状態を説明すると考えた方がいいと思います。

 

 

 

スムーズな復職につなげる方法

体調が良くなった状態から、働いても大丈夫という状態に持っていくには、徐々に仕事に慣れていくという段階が必要です。これはスポーツ選手がケガをした場合に、無理のない復帰スケジュールを組むのと同じです。復帰草々選手が100%の力を発揮しなくてはいけない状況になると、つい無理をしてケガの再発につながる可能性が高くなります。それは選手だけでなく、チームにとって大きな痛手です。

 

ケガの再発を防ぐために、最初は負担の少ないポジションで復帰して、徐々に負担を強めていく方が安全です。一般企業で取り組まれている方法としては、「リワークプログラム」「リハビリ出勤」「短時間勤務」といったものがあります。

 

リワークプログラムとは、復職をする前に、復職に耐えうる状態を作るための訓練プログラムです。公的機関や医療機関などがプログラムを主催しています(会社外でのプログラム)。プログラムに参加することで、出勤する時の生活リズムを作り、仕事の能力を高め、また病気の再発を防ぐ方法を学んだりします。

 

リハビリ出勤は、復職前に(会社によってはこの時点で復職という形になっていることもある)職場に出勤することを認めてもらい、徐々に職場に慣れていくという方法です。短時間の出勤から始め、徐々に会社にいる時間を増やしていきます。基本的には責任のある仕事はせず、正式な復職に向けての準備をすることが多いようです。

 

短時間勤務は、復職後すぐにフルタイム出勤とはせず、午前中勤務などから始めることです。1か月程度のスケジュールで、フルタイム出勤とすることが多いようです。復職という形を取っているので、仕事は与えられますが、短時間勤務に合わせて仕事量は軽減されています。

 

この様な方法を取り、少しずつ普段通りの仕事に戻るような工夫がなされています。ただ間違ってはいけないこととして、これらのプログラムに参加するには、症状はほとんどなく、体調が良くなくてはならないことです。体調が悪いのにこの様なプログラムに参加すると、症状が悪化することでしょう。

 

 

 

復職できるかどうかの基準

三次予防の第一歩として、復帰できる状態かどうかを見極めることが大切です。主治医の診断書だけで復職と決定してしまうのは危険です。

 

本人の状態が、「なんのストレスもない状態だから大丈夫」なのか、「少々のストレスがあっても大丈夫」なのかを見極める必要があります。ではどのような基準が必要でしょうか。厚労省から「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」が公表されています。

 

その中に、業務遂行能力についての次のような評価の基準が挙げられているので、その項目を参考に基準を考えていきましょう。

 

(a) 適切な睡眠覚醒リズムの有無  
会社に行く時と同じように、就寝・起床ができるかをチェックしてください。

 

(b) 昼間の眠気の有無  
昼寝を毎日しているような人がいます。薬の副作用で眠気が出ているのならば、薬の調整も必要です。

 

(c) 注意力・集中力の程度  
本や新聞などの活字を読めるかどうかを確認してください。1時間程度続けて読めていればいいでしょう。調子が悪いと、なかなか理解できず、何度も同じ文章を読み返してしまいます。

 

(d) 安全な通勤の可否  
通勤経路が長い場合など、体力を使うことがあります。またパニック障害の人は、電車に乗ることが可能なのか(特に混雑した時間帯)を確認する必要があります。

 

(e) 業務遂行に必要な作業(読書やコンピュータ作業、軽度の運動等)の実施状況と、作業による疲労の回復具合 
上記の読書以外に、体力面の確認が必要です。1時間程度歩行しても大丈夫かどうかを確認してください。疲労については、活動した翌日に回復できていればいいでしょう。

 

(f) その他ホームワーク等の遂行状況など
企業によっては、復職に際してホームワーク(新聞記事をまとめるなど)を課す場合があります。

 

企業としては、復職に際して上記のような条件を満たしているかどうかを確認する必要があります。それは同時に、復職する人にとっては、上記のような条件を満たすことを目指してリハビリしていけばいいということでもあります。