心療内科で使う漢方薬②

漢方薬の長所

今まで心療内科で使う漢方薬を、12種類紹介してきました。まだまだ使っている漢方薬はあるのですが、今回で漢方薬のご紹介は中断します。

 

私自身実際に漢方薬を使うようになったのは、ここ6、7年です。それまでは、「心の病気に漢方薬なんか効果があるはずがない」と思っていました(何の根拠もありません)。しかし漢方薬の講演などを聞いて使い始めたところ、思った以上の効果がありました。それどころか、漢方薬だからこそよくなった患者さんと出会いました。長年抗うつ薬などを使用してまったくよくならない方が、漢方薬を使いながら抗うつ薬を減らしていき、今では漢方薬だけで復職した人もいます。

 

またうつ病には至らないもののストレスが強く体調を崩している人には、漢方薬だけで対処できることが多々あります。この場合のいい点は、最終的に薬をやめることができるという点です。薬を飲まなくなり、通院しなくていいというのは、患者さんにとってはとても大きなメリットです。その上副作用が非常に少なく(ゼロではありませんが)、他の向精神薬と比べて、お勧めしやすい薬です。安心して処方ができるというのは、服用される患者さんには当然ですが、処方する医師にとっても大きな利点です。

 

だからとりあえず漢方薬を試してみようと、診察でもお伝えしています。もちろん漢方だけでうまくいかない時は、西洋薬も併用していいと思います。でもその時でも、西洋薬を少なくしたり、副作用を防いだりするのに、漢方薬は有用です。
これからも漢方薬について研鑽し、少しでもお役に立てればと思っております。そのためには診察の中で、いろいろと細かい体調を質問することもあると思いますが、よろしくお願い申し上げます。 尚、来月からは新シリーズとして、「職場で役立つメンタルヘルス(毎月第3月曜日)」を始める予定です。

 

 

 

苓桂朮甘湯

苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)

 

当院を受診される方は、ストレスで体調を崩されているのですが、よく訴えられる症状の一つに「めまい」があります。もちろんめまいが起こった時に、真っ先に受診しなくてはいけないのは、耳鼻咽喉科です。特に急な難聴を伴っている場合は、急いで耳鼻咽喉科を受診すべきでしょう。しかし、原因がストレスとしか言いようのないめまいもよくあります。そのような時は、心療内科に紹介されます。

 

今回ご紹介する苓桂朮甘湯は、めまいによく使われる漢方の一つです。東洋医学では、水毒と気逆がめまいを引き起こすと考えられています。苓桂朮甘湯は、水毒に効果がある茯苓と朮(じゅつ)、そして気逆に効果があるという桂皮・甘草の組み合わせで構成されています。まためまいの特効薬とされる「連珠飲」という薬があるのですが、これは苓桂朮甘湯と四物湯(前回紹介)の組み合わせで構成されています。

 

その他にパニック障害にも使用されることがあります。この際には、甘麦大棗湯という薬と一緒にすることもあります。パニック障害には抗うつ薬が使用されることが多いのですが、抗うつ薬に抵抗のある方や副作用が多い方は、試してみる価値があるかもしれません。

 

 

 

四物湯

暑さ寒さも彼岸までといわれます。しかし関西では、お水取りが済んだら暖かくなるという方が、なじみがあるかもしれません。

 

お水取りは3月12日夜(正確には13日午前1時)に行われるのですが、東大寺二月堂で行われる「修二会(しゅにえ)」と呼ばれる行事(3月1日~14日に行われる)のクライマックスを飾る儀式です。一度は見たいと思いながら、寒さ、花粉症、混雑・・・。ハードルは高いです。

 

まだ寒さが残るので、今回は冷え性に使われる四物湯を紹介します。四物湯は、血虚と言われる状態に使われます。血虚とは、血の不足による栄養不良状態が全身に現れたもので、西洋医学の貧血とは少し違うものと思ってください。血虚の症状としては、顔や髪に艶がなく、爪がもろい、皮膚のかさつき、めまい、疲労などがあります。

 

冬であれば、しもやけなどにも四物湯は使われます。また四物湯は、他の漢方薬と組み合わされて使うことがよくあります。皮膚のかゆみなどに使われる温清飲は、黄連解毒湯という薬と四物湯をあわせたものです。まためまいには、苓桂朮甘湯と四物湯をあわせて使います。まさに漢方の名バイプレーヤーといったところです。

 

注意としては、地黄という成分が入っていて、胃もたれを起こしやすい点です。その場合は、胃腸にいい薬を一緒に服用したり、食後に服用するという工夫が必要となります。