エネルギー(意欲)はあるけれど、そのエネルギーをうまく使えない状態を気鬱(きうつ)といいます。
頑張りたいのに、その環境にないため我慢していたり、言いたいことを言えない状況であったり、そのような状態と思ってください。そのような時に、不安になったり気分が沈んだりし、のどのあたりが詰まったような感じをすることがあります。エネルギーを出さないように、止めておくのは非常に緊張を要します。イメージとしては、破裂しそうな風船です。
このようなときの対処法は、エネルギーの発散です。ストレス対策としては、スポーツなどエネルギーを燃やすようなものがいいでしょう。カラオケなど声を出すのもいいでしょう。
漢方としては気剤という薬が使われます。その代表が半夏厚朴湯です。特にのどのあたりの詰まりを感じた場合に効果があるといわれています。きっと言いたいことが言えずに我慢していて、ずっと緊張しているような状況でしょう。また几帳面なタイプの人にあうといわれています。
ストレスを強く感じ、緊張状態が続くと、様々な身体症状が現れます。腹部の症状もよくみられ、吐き気や胃痛、食欲低下、便秘や下痢など様々です。
子供がストレスを感じると、よく「おなかが痛い」という訴えをしますが、これは子供だけの話ではありません。実は大人でもよくおこります。朝出勤しようと思うと、腹痛や下痢がおこるのです。それが原因で電車に乗るのが苦痛だという人もいます。下痢と便秘を繰り返す人もおれば、下痢ばかりという人もいます。中には仕事をするようになってから、十年以上このような症状に耐えているという人もいます。
このような状態で、いろいろ検査をしても異常が見つからない場合、「過敏性腸症候群」が疑われます。この病気には、西洋薬もよくつかわれています。漢方薬で対応する場合、桂枝加芍薬湯という薬がよくつかわれます。
この薬は、桂枝湯という漢方薬に、痛みや緊張をほぐす芍薬という成分を増量したものです。おなかが張った状態で、渋り腹・腹痛に効果があるとされています。
そのほかにも、効果が期待される漢方薬もあるので、症状がある場合は我慢せずに、かかりつけ医にご相談されるのがいいと思います。
女性の場合、ホルモンの影響を受けて、うつ病とよく似た症状を起こすことがあります。代表的なものとして、月経のはじまる1週間くらい前から不快な症状が始まり、月経が始まれば嘘のように症状が消失する月経前症候群(PMS)という状態があります。
精神症状としては、自分ではコントロールできないような「イライラ」「怒りっぽい」といった症状が出現し、夫や恋人とのけんかに発展したり、子どもにきつく当りすぎたりすることがあります。
そしてこのような精神症状が影響して、安定した社会生活が送れないことから自信を無くしたり、月経前の行動を後悔したりすることから、慢性的にうつ状態に陥ってしまうことがあります。(例:①夫や恋人とケンカになったことでずっと落ち込んでしまう。②この時期うまく仕事ができないので、上司に信頼してもらえない③何回もイライラして問題が起こるので、自分に自信が持てない)
もしこのような症状が疑われるときは、まず今の状況を記録して観察することです。いつが不調の時期なのか、どんな症状がどのように表れるかがわかってきます。そうすると、診断の手助けになりますし、またその不調の時期をどうやりすごすか対策を立てやすくなります。
PMSに対しての治療としては、低用量ピル、抗うつ薬などもありますが、当院では漢方薬を使った治療を行っています。特によく使われるのが、今回紹介する加味逍遥散です。
加味逍遥散は、女性に良く使われる漢方の代表です。女性特有の症状であれば、とりあえず加味逍遥散というくらいです。更年期障害や月経困難、月経不順などに処方されますが、便秘や肩こりなどにも効果が出る事もあります。
動悸やめまい、のぼせといった自律神経失調症状にも有効です。長年うつ病という診断で、抗うつ薬や抗不安薬で治療していてなかなか治らなかった人が、漢方と低用量ピルで症状がなくなったケースを経験しています(低用量ピルすら必要ない人もいます)。女性でなかなかうつ病が治らない人は、一度月経と症状の関連があるかどうかをチェックしてみてはどうでしょうか。
抑肝散(よくかんさん)
ストレスがかかると、心身に様々な影響がでます。精神面への影響として、余裕がなくなり、いらいらして怒りっぽくなるという症状があります。この様な症状があると、問題を解決するどころか、むしろこじらせてしまい、ますますストレスがかかるという悪循環を引き起こします。そのため怒りへの対処は、とても大切です。
また怒りが長く続くと様々な身体症状も引き起こします。代表的な症状として頭痛や眼痛があります。肩こりや眼の周囲の筋肉がぴくぴくすると訴える人もいます。怒っている時は自然と体に力が入り、筋肉の緊張が長く続き、これらの症状を引き起こします。
睡眠にも悪影響があります。怒りがあると、どうしてもそのことが頭から離れず、寝付きが悪くなったり、途中で目が何度も覚めることがあります。このように睡眠が悪くなると、疲れた体を回復させることができず、どんどん余力がなくなっていきます。
今回ご紹介する抑肝散は、このようないらいらして怒りっぽいという症状が出ている方によく使われます。月経前緊張症(PMS)で怒りっぽくなる人がいますが、そのような場合にも効果が期待できます。
小児の夜泣きや癇癪、チックといった症状にも適応があります。時によっては子育てをしている母親も一緒に抑肝散を服用する事(母子同服)もあります。
子供のイライラが母親に影響を与え、またイライラした母親が余裕のない対応をして子供に悪影響を与えるという悪循環を防ぐためです。
最後に、今抑肝散は老人医療で脚光を浴びています。認知症の場合、物忘れに伴い様々な行動面での異常(BPSD:不眠、徘徊、興奮など)が出現するのですが、この症状に効果があるといわれています。
補中益気湯(ほちゅうえっきとう)
当院で処方される漢方薬の中で、一番よく処方される薬です。
当院には、長くストレスと戦った結果、エネルギーの低下を来した患者さんが多く来院されます。この様な状態は、東洋医学では「気虚」と呼ばれます。そして消化吸収機能を向上させることで、全身の栄養状態や生体防御機能を回復させるタイプの漢方薬(補材)が処方されます。その代表が補中益気湯なのです。
補中益気湯があう人は、慢性的な疲労倦怠感、無気力、手足倦怠、食後に眠い、食事がおいしくない、熱いものを好む、動作が鈍い、話し方に力がない、目に勢いがない、寝汗や微熱などの症状があるのが特徴です。
またその他の特徴として、内臓下垂や免疫にも効果があるといわれています。風邪をよくひく人や、胃下垂の人などにもいいと思います。
あまり良くないかもしれませんが、長時間労働をして疲れが出た時に補中益気湯を服用して、その場をしのいでいる人もいます。「疲れが出たら補中益気湯」というのはいいのですが、長時間労働を改善しないと、もちろん根本的な解決にはなりませんね。