今回は不安や恐怖にとらわれてしまった時、どうしたらいいのかを考えていきます。まずはこのような状態の時、どんな言葉が頭に浮かびますか?「もうだめだ」「私にはできない」「どうしようもない」といった否定的な言葉が、出てくると思います。このような言葉が出てくるのは、「自分でコントロールできない」という感覚に支配されているからです。そのため不安に支配された人は、立ちすくむか恐怖を払いのけようと無意味に興奮するという行動に至ります。その結果、どんどん状況は悪化していきます。ではこのような状況に陥らないようにするにはどうしたらいいでしょうか。それは、自分でコントロールをしているという感覚を持つことです。その方法を考えていきましょう。
では不安のため体が過剰に緊張して思うように動けない時は、どうしたらいいでしょうか?「緊張しているのだから、リラックスさせればいい」・・・これで正解です。でも力を抜こうと意識すると、かえって力が入ってうまくいかないことがよくあります。そうなると、リラックスしようとしているのにうまくできないと感じ、ますますコントロール不可能という状況に陥ります。このような時には、「リラックスのコツ」を思い出してください。一度自分で力を入れて、その後で力を抜いてみるのがコツです。そうすると、「自分でコントロールしている」という感覚が戻ってきます。
ただもっと不安や恐怖が強い時は、思考がほぼ停止してしまうことがあります。そうなると逃げた方がいい状況なのに、立ちすくんでしまいます。このような時は、自分の思考を取り戻す必要があります。よくとられる方法は、自分への刺激です。頬を叩かれて、はっと目が覚めるような感じです。不安や恐怖の支配から、自分の思考を取り戻すのです。そして次にすべきことは、「とりあえず今できる事」を探し、その作業に集中します。目の前のことに集中するということは、不安や恐怖を減らすことにつながります。何をすべきかどうしても浮かばない時は、「とりあえず息を吐ききる事」に目を向けてください。呼吸をコントロールできるようになると、人は冷静になってくるものです。
不安や恐怖というのは、未来や過去に目を向けすぎることから生まれます。現在に目を向けることができると、不安や恐怖は小さくなります。目の前の事に集中する練習は、普段からしておきたいものです。
前回は、不安や恐怖は本来必要なものであることを説明しました。しかし、実際はどうでしょう。むしろ不安が強くなりすぎて、立ちすくんで動けなくなることが問題になっています。どうしてこの様な事になるのでしょうか?
ではここでお化け屋敷を思い出してください。お化け屋敷に入るとわかっていながら、怖くなってしまうのはなぜでしょう?その理由は、不意を突かれるということ、暗くて良く見えないこと、よく知らない場所であることなどでしょう。お化け屋敷では自分の置かれている状況が理解できない中で、追い打ちをかけるように怖い体験が続き、不安な状態に不安が重なっていきます。多くの不安が重なって逃げてしまうと、逃げる方向しか見えなくなります。そのため追っかけてくるものを確認せず、自分で想像するようになります。
この時の想像は、不安な感情の影響を受けるので、実像以上にこわいものになります(この状況は、「幽霊の 正体見たり 枯れ尾花」という有名な句がうまく表現しています)。そして考えることを放棄してパニックになってしまいます。また動悸したり、体が思うように動かないことに気づき、自分の体でないようにも感じます。まさに心身共にコントロールできない状況となるのです。不安はコントロールできる状態であれば、危険を察知して対策を練るために役立ちます。一方コントロールを失うと、かえって自分に不利な状態になります。大事なのは、「自分がコントロールできる」ということです。
では、もう一度お化け屋敷について考えていきます。どうすればお化け屋敷は怖くなくなるでしょうか?何度も下見をして、照明を照らし、そして自分たちの数メートル先に先発隊を置けば、おそらく不意を突かれることもなく、恐怖感はかなり減るでしょう(全く面白くないでしょうが)。このように不安おばけを、しっかり見ようとする姿勢が必要です。怖いけど見てみようという意識は、状況をコントロールするための第一歩です。
不安に駆られてやみくもに逃げると、ますます不安をかきたてられ、コントロールを失ってしまいます。「今とりあえずできる事は何か」を探し出すことです。同じ逃げるとしても、どうやって逃げるのがいいのかを考える必要があります。冷静に考えるには、以前に説明した紙に書きだす方法などがいいでしょう。ただ最初に不意を突かれ、少しコントロールを失いかけたらどうしたらいいのでしょうか?次回は、コントロールを失いそうになったときの対処を考えていきます。
不安や恐怖で悩まされている人は、たくさんいます。「この不安さえなければ、●●●できるのに、不安が強くてできません」というセリフは、よく聞かれる言葉です。しかしそんなに不安は、邪魔者なのでしょうか?
ではここで不安がゼロの状態を考えてみましょう。不安がゼロって理想だと思いますか?とんでもありません。不安ゼロは、とても危険な状態です。一つ例を挙げると、「酔っ払い」です。酔っぱらってしまうと、極端な場合、道で寝転がる事さえ怖くなくなります。言ってはいけないことを言ったり、知らない人と喧嘩をしてしまったりすることもあります。このように不安がゼロになってしまうと、とても危険な状態になるのです。
不安を減らす薬(抗不安薬。マイナートランキライザーともいう)をたくさん服用する人がいますが、この様な人は不安を無くそうとしすぎる傾向があります。その結果、酔っ払いに近い危険な状態になってしまうのです。そして酔っ払いと同じく、気分が高揚していて 危険に気付かず、むしろ調子がいいと感じていることさえあります。そのため危険性を周囲が説明しても、聞く耳を持ってくれません。
そもそも不安や恐怖は、なぜ起こるのでしょうか?それはおそらく、以前に危険(もしくは嫌悪感)を感じた場所(または状況)に、近づいたからだと思われます。そして危険が近くにあるというサインとして不安があると、その危険に対処することができます。危険が近くにあるので、そのことに注意を払うことができます(不意打ちを避けることができます)。場合によっては逃げるという方法もあるし、逃げないで対策を立てるということもできます。それはどちらが得かを考えて選べばいい事です。 このように不安があることは、本来とても自然な事で役に立つことなのです。
不安を無くそうとするのではなく、まずは不安を受け止め認めようとする姿勢が大切です。その姿勢を持つことができると、不安になっても慌てふためくことはありません。不安の存在を認めることができると、かえって冷静になれるはずです。しかし現実には、不安に振り回され、うまくいかないこともあります。そのような時はどうすればいいのか、次の機会に考えていきます。
怒りは損なのか得なのか
先月(2014年10月)、ノーベル物理学賞に、日本人3人が同時に選ばれるという日本にとってビッグなニュースが飛び込んできました。青色LEDの発明・普及に貢献された3人ですが、その中の中村修二教授は、「原動力は怒り」とお話しされていました。
先生は研究環境の不満を、研究へのエネルギーに変えて、素晴らしい成果を出してこられました。中村教授のように、怒りを原動力として、大きな成果を上げている人はたくさんいます。また大抵の革命は、多くの人の怒りが集合体となり、現状を打破したものです。このように怒りは、現状では不可能と思われていることを可能にする大きなエネルギーを持っています。
その一方でエネルギーがとても大きいので、制御するのはとても難しいという一面もあります。その証拠を示すように、怒りを制御できず、「カッとなってやった」犯罪が起こっています。今まで頑張って築き上げた立場や名誉・家族・財産などを、一瞬の怒りでなくすケースが後を絶ちません。冷静に考えることができれば、こんなバカなことしないはずだと、第三者は思うでしょう。しかし、怒りのコントロールをできなくなった当事者は、そのあとのことも計算できず、止めることができなくなっています。
話は変わりますが、馬は普段非常に頭のいい動物で、騎手の命令に従います。しかし非常に敏感な動物でもあり、驚かされたりしてパニックになると、騎手の命令が届かなくなります。騎手が力ずくで止めようとしても、所詮馬の力にはかないません。実は人間の頭も同様なのです。感情を司る部分は、原始的な古い脳ですが、とても大きな力を持っています。そして大脳皮質という人間らしい高等な部分の脳が、いろんな思考を作り出し、どうやって生きていくかをコントロールしています。
怒りというのは、どこから発生しているのかというと、おそらく大脳皮質からだと思います。たとえば、友人に裏切られたとします。するとまず自分が感じるのは、「ショック」「残念」「悲しい」という感情だと思います。実はこのまま、悲しいだけで終わってしまう人もいるのです。しかしこの後、「自分は友人に精一杯してあげたのに」「私を裏切るとは、私を大事に思っていないのか」「このままで済ませていいのか」等という思考が、感情に詰め寄っていきます。その時に怒りは、二次的に発生するのです。
ただここからは、思考という騎手がうまく操ることができる場合と、制御不能に怒りが大きくなっていくかで結果は変わります。そもそも思考は、自分を大事にしたいのですから、社会生活のルールの中で相手を見返すことを考えます。短期的には、暴力を伴わない自己主張という方法があるでしょうし、長期的には自分を磨いて、相手より上の立場になることでしょう。この範囲なら、怒りはプラスになることがあります。
ただし、怒り自体は興奮状態ですから、体への影響や表情などにはマイナスの影響を与えるかもしれません。一方コントロールを失うと、社会生活のルールを逸脱して、暴力や問題行動となるでしょう。そうなると、損をするのは自分です。おそらく怒りのエネルギーが静まった後で、後悔することになります。
まとめると、怒りは両刃の剣です。普段から怒りをコントロールする練習をしておけば、困った現状を打破するエネルギーになるでしょう。しかしコントロールを失うと、間違いなく損をするでしょう。怒るときは、計算された怒りである必要があるのです。
前回怒りに対しての対処として、怒りでいっぱいになった自分のエネルギーを、怒り以外に置き換えて使ってしまうこと、いわゆる「ストレス発散」を紹介しました。今回は、怒りのエネルギーを作らないようにする方法について書いてみようと思います。怒りのエネルギーを作らないようにするためには、①怒りの対象について考えない②怒りが起こりにくい状態を作るということが有効です。
自分が腹を立てている時のことを思い出してください。おそらく、怒りの対象についてずっと考え続けていることと思います。そして考えていけばいくほど、どんどん怒りのエネルギーが増幅していきます。このことから考えると、怒りの対象から目をそらすことができると、怒りの延 焼は抑えられそうです。この時ただ単に目をそらしても、頭の中で考えてしまうと効果はありません。そうならないためには、何か別のもので置き換える必要があります。別の思考に置き換えるといいのですが、おそらく怒りのエネルギーが大きいので、すぐ怒りの対象に思考が向かってしまいます。むしろ「別の行動」に置き換えるほうがよさそうです。前回ご紹介したストレス発散法のような行動に夢中になることができると、自然と怒りから目をそらすという対処にもなっているのです。
次に怒りが強い時の体の状態を思い出してください。おそらく、体に力が入り、頭に血が上り、呼吸を止めているか、もしくは呼吸を激しくしているかだと思います。怒りという感情が、この様な体の状態を作っ ているのですが、同時にこの体の状態を続けると、より怒りが増幅しやすくなります。では逆に体をリラックスさせながら怒る事はできるでしょうか?一度実験してみてください。おそらく体に力が入らないと、怒っていても何か物足らない感じがすると思います。このように、リラックスしている時の体の状態を作ることが、怒りを鎮めることに役立ちます。今までにご紹介したリラックス法や腹式呼吸法を使ってください。またリラックス法に集中すること自体も、自然と怒りから目をそらす効果があります。
まとめると、とりあえず怒りの現場から離れて、体をリラックスする動作に集中してみてください。愛犬を連れて散歩に出かけるというのもいい案です。部屋にこもって好きな音楽を聴くのもいい でしょう。それでもなかなか怒りは収まらないかもしれません。でもそれはあなたが怒りを選択しているからでもあります。では怒りを選択するのが、得なのか損なのか次回考えてみようと思います。
世の中はすべて自分の思う通りには動きません。生きている以上、どうしても我慢しなくてはいけない場面があります。特に仕事の中においては、我慢を強いられることがよくあります。
この様な状態では、まず「嫌だな」という考えとともに、悲しいという感情が出てきます。その後、「なぜ自分がこんな目に遭わなくてはいけないのか」という怒りの感情が湧いてきます。怒りという感情は、どんどん燃え上がり、火事のように大きくなっていきがちです。
しかし、この感情を人にぶつけるのは得策ではなく、たいていの人は、怒りを抑えようとします。この抑えの力は、長く続ける必要があり(短ければ怒りを止めることができず爆発してしまう)、どうしても多くのエネルギーを必要とします。
そのまま何の対策もしなかったら、我慢できずに怒りを出してしまうか、もしくは我慢するのにエネルギーを使い果たし、他に使うエネルギーがなくなってしまう(疲れ切った)状態になります。そのため、怒りが強くなった時の対処法は、とても重要です。
ではこのような時にどうすればいいのでしょうか。大まかには三つの方法があります。
一つは、怒りでいっぱいになった自分のエネルギーを、怒り以外に置き換えて使ってしまうこと、いわゆる「ストレス発散」です。そしてもう一つは、怒りのエネルギーを作らないようにすることです。そして最後に、怒りを続けることが自分にとって得ではないと気づくことです。今回は、ストレス発散について考えてみます。
ストレス発散にはいくつかポイントがあります。これは、「怒りを表現する代わりにすること」であり、そのためには①エネルギーを多く使うもの②自分を表現するもの③他人に迷惑をかけないといったものがいいでしょう。
よくある発散法として、友達に愚痴を言うというのがあります。これは①②という面では推奨できますが、あまりに頻繁だと友人に迷惑をかけてしまうので、気を付ける必要があります。運動や歌うことが趣味ならば、①②③を満たし、とてもいいと思われます。
夏にはあちらこちらでお祭がありましたが、これもずっと我慢してきたものを発散させる場として最適です。お祭りにつきものの花火、おみこし、踊りといったものは、きっと多くの人のもやもやした気分を発散させたのではないでしょうか。
悩み事には、いくつかのパターンがあります。今回はいくつもの選択肢がある場合について考えてみましょう。
選択肢が多くても、ある選択肢に決め手があれば迷いません。例えばそれぞれの選択肢に点数をつけてみた場合、Aが80点でBが20点ならば、おそらく誰も悩まないと思います。悩み事になっているのですから、おそらくAが55点でBが45点というような接戦であるのでしょう。
普通は55点か45点のどちらかを選ぶ必要があるといわれると、誰でも55点を選びます。でもそれが難しいのはなぜでしょうか。一つはしっかり点数化ができていない事、もう一つは捨てる覚悟ができていないことです。
点数化をすること
ある選択肢に決め手があれば、わざわざ点数化をしなくても、頭の中で決定することはできます。しかしいくつかの選択肢が接戦である場合は、頭の中だけで考えていては混乱します。脳は記憶力としてはいいのですが、意外と処理能力は低いと思ってください。また感情に左右されることもよくあります。世の中にはいろいろ不可解な事件が起こっていますが、感情をコントロールできず、最悪の選択肢を選んでしまっていることがあります。
そこで、それぞれの選択肢について、プラス面とマイナス面を思いつく限り書き出してみましょう。そして、プラスマイナスに点数をつけてください。数字ではなくて、大きさで表現してもいいです。大事だなと思う点であれば、大きな丸を書けば分かりやすいと思います。
ここでのポイントは、書き出す前に躊躇して止めないことです。こんなことはどうでもいい事だからと判断せず、とりあえず書き出すことです。その上で書き出した点数をよく見てください。客観的に判断したいので、ゆっくり呼吸をして、落ち着いて始めてください。感情を落ち着かせないといい判断ができなくなります。
捨てる覚悟
点数化ができても、中々決断できないことがあります。本来なら捨てなくてはいけない選択肢に対する執着があるときです。
片づけをしている時、長年着ていない服なのに、「あの時高いお金を払ったから」とか、「ひょっとしたらまた着る気持ちになるかもしれない」という感情が邪魔をすることがあります。ここで大事なのは、捨てる勇気を持つことです。55点の選択と45点の選択を、同時に持てないから悩むのです。同時に持てるのなら、最初から悩まないでしょう。
この状況では、「自分のベストの選択は55点だ」と、しっかり認識することです。それは同時に「100 点は無理。45 点は捨てる。」と割り切るということです。大袈裟ですが、この覚悟ができると気持ちは楽になります。
一日の予定にしても同様です。1日は24時間しかありません。その中でスケジュールを作っていくしかないのです。何をするかを決めるということは、同時に何をしないかを決める事でもあるのです。
悩み事には、いくつかのパターンがあります。今回は全く行き詰った状態について考えてみましょう。
いくら考えても全くいいアイデアが出てこない時もあります。この様なときにあまり思い詰めると、疲れはててしまいます。一度別の視点から考えた方がいいでしょう。そのための方法としては、一度諦める、人に話す、友人が同じ状況ならどんなアドバイスができるか考える等です。
1、一度あきらめる
悩んでいる時、皆さんはどのような体の状態になっていますか?眉間にしわを寄せたり、肩に力が入っていたりしているのではないでしょうか。悩んでいる時は、どうしても闘う姿勢になってしまいます。このような時は視野が狭くなり、柔軟性に欠ける傾向があります。何とかしようという欲を捨てて、一度あきらめると肩の力が抜けリラックスします。すると考え方も客観的になり、別の視点から見ることができ、柔軟でいいアイデアが浮かんでくることがあります。あきらめるというと聞こえはよくありませんが、かえって近道になることがあります。ただし最初からあきらめていると、いい答えは浮かばないでしょう。頑張るだけ頑張ったあとで、力を抜くのがいいようです。いろいろと悩んでいる時間も意味があると思います。
2、人に話す
これは、いいアドバイスをもらうことが目的ではありません。もちろんいいアドバイスをもらえたら有難いことですが、それ以上に人と話すことのメリットがあります。それは、今の状況をできるだけ伝えるためには、状況を整理する作業をするからです。状況が整理できると、答えが見つかることがあります。また感情を受け止めてもらえることで、冷静さを取り戻すこともあります。ただこの方法には欠点があります。いい聞き手になってくれる人が、身近にいないかもしれないことです。またあまりに長時間であったり頻繁であったりすると、その聞き手の人に嫌がられる可能性があるので注意してください。
3、友人が同じ状況ならどんなアドバイスができるかを考える事
他人になったつもりで考えるということでもあります。行き詰っている人の多くは、自分に厳しすぎる傾向があります。そんな人も、他人の困っている状況には、優しい言葉を投げかけることはできます。あとはその言葉を、自分が受け入れることです。この受け入れるということは、簡単なようでいて難しいものです。意地を張らずに、その言葉を受け入れてみましょう。すると楽になります。
ストレスについて説明するとき、次のような話をよくします。例えばあなたの目の前に、クマが突然現れたらどうなるでしょうか?おそらく闘うか逃げるかという選択肢を選ぶことになるのですが、どちらを選ぶにしても、選択する前にあなたの体や心はすでに反応していると思います。おそらく次のような反応が思い当たるのではないでしょうか。
・体の変化―血圧や心拍数が上がる。からだに力が入る。汗が出る。呼吸は激しくなるかもしくは息をひそめたり、止めたりする。
・心の変化―興奮。攻撃的。集中する。恐怖
これらの変化は、闘うにしても逃げるにしても有利な心身の状態です。血圧や心拍数が上がるのは、全身の筋肉に酸素や栄養分を送り込むのに有利です。汗が出ることで筋肉を使って体温が上昇するのを防ぎ、手に汗が出ることで滑りにくくするという作用もあります。興奮することで攻撃を受けてもひるむことがなくなり、また痛みに対して鈍感になります。このような状態を無意識に作れるのは、交感神経系の自律神経のおかげです。この他にも、瞳孔が大きくなったり、血糖値が上がったりということがあります。この様な状態は、エネルギーを大量に使い、短期決戦には向いています。しかし長期の闘いでは、エネルギーを使いすぎ、だんだん疲労します。
ところで現代社会では、クマに出会うことは少ないですが、クマに出会った時と同じような心身の状態になることがあります。たとえば大勢の人の前で話をしたり、満員電車で通勤したり、失敗のできない細かい作業であったり、非常に多くの緊張を強いられる場面などです。一般にストレスがかかっているといわれる状況です。このような現代社会でのストレスは、長期に続くことが多くあります。そのためストレスがかかり、原始的なストレス反応は自然と起こってしまいますが、長期戦となるのであまり好ましい状態ではありません。かえってマイナスに感じられる事が多くみられます。
上のようなことをまとめると、ストレスとは緊張する状態であり、そしてその緊張状態は人間の仕組みを考える時、元々は自然で有利なものだと言えます。ただ現代ではストレスが複雑で長期にわたるため、あまりこの状態を長く続けると、心身が疲れてマイナスになってしまいます。そうならないようにするためには、緊張を緩める時間・疲労から回復する時間が大切です。この回復の時間があるから、ストレスに立ち向かうエネルギーが蓄積されるのです。忙しい毎日だからこそ、意識して回復の時間を探す必要があるのです。
世の中にはたくさんのリラックス方法が紹介されています。自分にとって気分が良いものであれば、きっとそれはいいものです。できれば長く続けることができる、手軽にどこでもできる方法を探してみましょう。
ではどうすれば、リラックスして力を抜くことができるでしょうか?これは簡単なようで案外難しいものです。例えば次のような場面を想像してください。一打逆転の場面でピンチヒッターに指名された野球少年がいたとします。当然彼は緊張しています。おそらく自分がどれくらい緊張しているのかもわからなくなっています。そこに心無い声援が浴びせられます。「肩に力が入っている。緊張しないでリラックス。」このようにアドバイスされると、彼は自分の肩に意識が向かいます。肩を意識すると、肩に力がもっと入ります。そして力を抜こうという思いとは反対にもっと緊張してしまい、目の前のゲームに集中できなくなります。こうなると結果は無残です。
この少年の場合、何が問題かというと、無意識に力が入っている状態であるというところです。そしてその上に、体のある部分に意識が集中し、より力が入ってしまったことです。このように緊張が強くなりすぎると、いろいろとマイナス面が出てきます。まず体が硬くなり、力が出なくなります。筋肉というのは、緩んだ状態から縮む状態に変わることで、力が発揮されます。緊張して筋肉が縮んだままでは、力は入っていても作用しません。それに加えて、力が入っている間はどんどん疲労がたまります。スポーツでリラックスする必要があるというのは、筋肉の力が最大限発揮され、またそれを持続するために必要なのです。
ではこの少年には、どうアドバイスすればいいでしょうか?リラックスにはコツがあります。それは力を抜こうとする前に、一度力を入れてみることです。すると自分で力を入れている実感がでてきます。力を入れていると意識できると、力を抜くという動作が簡単になります。具体的には、肩を一度耳に近づけるように挙げてみます。そして肩に力が入っているのを確認してから、肩を降ろします。もちろんこれはほかの体の筋肉にも使えます。顔がこわばっているように感じたら、一度顔にぎゅっと力を入れて目を閉じてみましょう。数秒してから、顔を緩めてみてください。これを普段から練習しておくと本番でも使えると思います。こうすればリラックスできるという方法を持っていることだけで、ストレスに強くなれます。